大規模修繕工事・成功への近道

大規模修繕工事を終えて輝くようによみがえったマンション
大規模修繕工事・成功への近道 吉田 憲治 | |
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(1) 大規模修繕の時期・工事費用について | (1) 大規模修繕の時期・工事費用について大規模修繕の時期は、一般に竣工後12年から15年位で修繕工事をされるところがほとんどで、マンションの建物のそれぞれの状況や積立金の金額により、決定される事が殆どです。 しかし、費用もそれぞれのマンションの建物の規模や、劣化状況、形状、工事の内容や項目等によって、かなり異なります。 工事の時期や費用も、それぞれのマンションに合った計画により決まります。 一戸あたり65万円から85万円と良く言われますが、これはあくまでも、平均値で目安に過ぎません。 一般に、小規模のマンションほど一戸あたりの工事金額は高くなり、場合によっては一戸あたり100万円以上になることも有ります。 劣化をいかに食い止め、手入れしていくかによって、20年30年後のマンションの修繕積立金の支出や資産価値に大きな差が出てきます。 資産価値を維持して不必要な支出を極力避け、適切な時期での“修繕工事”が重要となります。 |
(2) 大規模修繕工事の成功ポイント | (2) 大規模修繕工事の成功ポイントマンション工事における成功への近道 a. 危険な箇所や建物の劣化を極力なくすコンクリート、モルタル、塗料、金物、タイルなどと落下しそうなものが多く有るのが建物で、劣化を放置しておくと、とても危険です。 修繕工事の際にすべて補修する必要があります。 又、最近のマンションは、タイル張りが増え、タイルの落下の危険性が有るかどうか、打診調査や引っ張り試験等による物理試験も必要ですが、手の届く範囲で限られているため、建物全体の完全な調査が出来にくいのが現状です。 その他に、手摺のがたつき、滑りやすい床、子供が危ない箇所、高齢者が危ない箇所は有りませんか? セキュリティーを売りにしているマンションが、意外と防犯上入りやすいことも有ったり、EV内が危険な死角となっていたりしませんか? 又、いざという時の避難経路(バルコニー通路の確保)が確保されてますか? 火災が起こりやすい箇所や敷地内に死角は有りませんか? 屋内階段やバルコニーに不要な可燃物やゴミが放置されていませんか? これらを解消する為にもマンション組合員による修繕委員会等を設置し、きめ細かな、危険、劣化箇所の早期発見・早期治療が全ての予防対策となります。b. 建物躯体に水や酸素、二酸化炭素を近づけない鉄筋コンクリートの建物の敵は、主に酸素、二酸化炭素、紫外線、雨水(塩を含んだ雨水、酸性雨)などです。 これらが建物(躯体部分)に進入しないようにすると、建物が長持ちします。 又、パラペット、バルコニー(ベランダ)、廊下、屋外階段、手摺壁等といった雨ざらしになる箇所が多いのがマンション建物の特色です。 したがって、オフィスビルとは大きく異なります。それでいて最初から防水されていないケースがほとんどです。 外装の塗装やタイルは、単に見栄えをよくするだけでなくコンクリートの構造体をこれらの要素から保護するための目的も含んでいます。c. 美化する建物をリフレッシュして美しくするのは、工事の重要な目的のひとつです。 どのように美しくするかについては、修繕委員会(建築関係に詳しい方)や コンサルタント会社(専門家)の意見を聞いて、決めていくことが大事です。 管理会社は、日常から建物点検によって、建物の工事履歴を把握し、入居者の事情を考慮している会社もありますが、大部分が利益誘導に走りきめ細かな工事監理や配慮した対応が出来ないところがありますので、ここは大規模修繕の実績と経験が豊富な建築士がいる設計事務所にコンサルタント(過去20棟以上経験)を依頼し、その指導の元で修繕委員と共により良い建物に蘇らせて下さいd. 建物の性能と機能の充実アップ
e. 生活しながらの工事をいかに円滑にトラブル無く進めるか!音や匂い、ほこりを出来るだけ最小限にし、工事中の不便を出来るだけ少なくなるような、工事計画を練りたいものです。 バルコニーは、共用部分ですから、工事の際には、各住戸で物を片付けたりして協力していただかなくてはいけません(物置、エアコン、植物、他)。 マンション工事は、手慣れた工事業者(住民が生活しながらの工事はかなりのノウハウを持った経験豊富な業者)を選択することが大きなポイントですが、工事業者と管理組合が共催する工事説明会で、いかに住民の協力が得られるかも大きなポイントとなります。工事業者の選定条件としては、
f. 建物の延命を考える!建物で大事なことは、常に修繕の計画を立てることです。 修繕項目・修繕周期・修繕仕様書・修繕概算金額に対して、必要な箇所を選定し、不必要な支出をさける事が大事です。 そして、建物の延命と合わせて検討することが不可欠で、その為には修繕が完了した時点での修繕計画や積立金の見直しが特に重要で、その都度検討し改定することが必要となります。 |
(3) 企画 どのように進めたら良いか~ | (3) 企画 どのように進めたら良いか~マンションの大規模修繕に関する修繕項目は多種多様で、かなりの専門知識が要求されます。 素人の住民だけでは、とても手が出せません、一級建築士がいるコンサルタント会社(過去20棟以上経験)に依頼して、専門家として修繕委員会や理事会に出席し、打合せし、工事計画から、スケジュール・バルコニー調査・設計仕様書・工事業者の選定・見積書の検討・ネゴシェーション・ヒアリング・業者決定といった事をアドバイスしながら、円滑に大規模修繕を成功させるためにも、重要です。 (工事の実施時期も大切です。夏の暑いときは、足場やネットがかかっており窓が開けられませんし、お子さんも夏休みで建物の周辺が危険でいっぱいになり、冬は寒いので塗料やタイルの付着が悪いので出来ません。春先か秋からの工事となることがベストです。) a. コンサルタントの建物調査診断から得られるもの建物の弱点を知り、緊急工事の必要な箇所の把握をする どんな工事をすれば延命できるのか 長期修繕計画による、工事箇所と修繕積立金の再検討b. 管理組合の取り組み方や心構えについて工事を管理組合のコミュニティー作りの機会と捕らえる 工事検討段階から、広報を作って、計画状況を知らせる 工事検討開始から、工事着工まで余裕の有るスケジュールをたてる 見積書と工事仕様書を作成して、複数の業者から見積をとる 工事経験・健全経営・総合技術力・メンテナンス等を検討し業者決定する 工事計画(事業計画)や工事の予算確保(積立金の取り崩し)は総会決議とする 工事説明会を住民対象で行い協力を呼びかける |
(4) 設計(見積依頼書・仕様書・図面の作成) | (4) 設計(見積依頼書・仕様書・図面の作成)大規模な建物が対象となります。 工事の材料や工事方法を検討し、それらをまとめて図面や仕様書を作成する業務なので、コンサルタント業務先はマンションの大規模修繕(過去20棟以上経験)のコンサルタント経験をしたことの有る一級建築士設計事務所がもっともふさわしいといえるでしょう。 建築士がマンション修繕工事設計を行う手順
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(5) 業者決定の手順と注意事項 | (5) 業者決定の手順と注意事項同じ書類(設計図書)で見積参加業者に現場説明会を開き、公平に渡して見積作業に入ってもらいます
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(6) 工事説明会の重要性 | (6) 工事説明会の重要性出来るだけ多くの住民の人に集まってもらい、工事期間中の問題点やお願い事を説明して、納得してもらいます 工事説明会には、前もって作成した説明会用の冊子を持参してもらいますが、もし欠席の場合でもそれを読めば理解できるものを作成します 工事期間中は足場がかかっているので、誰もが足場伝いに上がって来られます。そのことを忘れず、バルコニーの窓の施錠をしっかりすることが必要ですが、その他工事期間中のお願いと、危険箇所や住民の方々への連絡方法等様々な説明を行います。 |
(7) コンサルタントによる工事監理 | (7) コンサルタントによる工事監理工事監理は工事契約通りに工事が実施されているかをチェックし(週1~2回)、問題点は理事会や修繕委員会で検討します。 マンションの修繕工事は、最後に一斉に検査するという形は取りにくいので、終わったところから竣工確認と検査を行って、足場をはずしていきます。 住民アンケートが有効となります。チェックの確認方法を事前に確認しておくこと。足場が無いと補修工事の数量が決定できないこともあるので、想定数量による工事契約を結んでおいて、数量確定後に清算する方法もあります。 竣工確認を誰がどのように行うかという取り決めも、工事前にしておきます。 |
(8) 竣工について | (8) 竣工について工事の竣工を全部確認できれば、あとは、竣工図書の引渡しになります。 完成引渡し書 仕様書(工事中の変更箇所を記入したもの) 内訳書(特に清算工事の増減項目を記入したもの) 保証書(仕様書で決めておく・施工業者、メーカーによる一体保障) 使用材料リスト(メーカーからの出荷証明・カタログ他) 実施工程表 (週間・月間・全期間) 劣化状況図(使用材料の数量増減比較表・全部分の劣化箇所記入) アフター点検リスト 等々 |
(9) アフター点検 | (9) アフター点検工事後の点検を何時誰と、誰が行うのか、どんな要領で行うのかについても、あらかじめ決めておかないと、理事会メンバーが交代して分からなくなってしまうことがあります。 工事業者と契約する際に、2年後のアフター調査をアンケートも含めて行うことといった内容も決めましょう。 |
(10) 2回目以降の大規模修繕工事について | (10) 2回目以降の大規模修繕工事について1回目の大規模修繕工事と、2回目の大規模修繕工事では、少し様子が違うことが出てきます。 工事項目についても、2回目ならではの工事が候補に上がってきますので挙げておきます。 バリアフリー化(住民の高齢化による) 集合郵便受けの取り替え(施錠部分の劣化による) 鉄部をアルミやステンレスに取り替える(各種電器盤他) 住宅玄関扉の取り替え(兆番・金物・施錠部分・ドア本体の劣化) 照明器具の取り替え(ステンレス・アルミ・アクリル) 給水管と排水管の取り替え(発錆による管の漏水等) 防災器具や避難経路の整備(非難ハッチ等) 排気金物の取り替え(換気ガラリ) アルミサッシュの戸車の取り替え(カバー工法による二重サッシュ) オール電化による電気設備の見直し(電気容量の確保他) 等々 |
(11) 長期修繕計画と今後の計画 | (11) 長期修繕計画と今後の計画長期修繕計画を作成してから工事に取り組むのが成功するポイントです。 大規模修繕が竣工した時点で長期修繕計画の見直しが必要です。(建物の延命と合わせて修繕計画や積立金の見直しが特に重要で、修繕工事完了後その都度検討し、住民の理解を得て改定していくことが必要となります。) 長期修繕計画は、支出だけでなく、収入計画もしっかり示すことが大切です。 |