メゾン・ド・ヒミコ
オダギリ氏の言うとおり、いろんな要素を含んだ映画で、ある人は「性を越えた愛」だと言うだろうし、ある人は「家族愛」だと言うだろうし、「老い」についてだと感じる人もいるだろうなと思う中、今の私が一番心に引っかかったのは「生と死」でした。
沙織(柴咲コウ)の勤務先の風景はいかにも見慣れた日常で、一方メゾン・ド・ヒミコの住人達、流れる時間は夢の中のように非日常的です。沙織が会社とメゾン・ド・ヒミコを行ったり来たりするたびに私は目の覚める間際のうつらうつらと夢を見ているようなおかしな気分になり、特にオレンジ掛かったセピア色の死の臭いする部屋で、春彦(オダギリジョー)が「欲望が欲しいんだ。」と口にするとたちまちある感覚が思い出され、悪夢を見た後のように心がざわざわとしてくるのです。
映画から受け取るものが、自分の経験に妙にリンクのは仕方がないかなと自分語りのお許し頂ければ・・・・・、超楽観主義(んなものはない)の先駆者として、同僚から称賛(と、いうか罵声)を浴びるワタクシですが何にも興味が持てずひたすら時間が過ぎ、無理に心を奮い立たせようとした昔、藻掻くほど出口が見えなくなり、私は「生きたいと思えないこと」に焦っておりました。欲望の持てない日々は時が止まってしまったかと思うほど長く感じ、生きるには「これがしたい、あれがしたい」という欲望が必要なんだなぁと、そして欲望を持つことは案外難しいんだとこの時初めて知りました。
何の解決も答えも出さないまま、ストーリーは進んでいくけどきっと日常ってこんなもんじゃないでしょうか。その日常の先にはゲイの人にもゲイじゃない人にも、老若男女全ての人へ平等に死はやってきますが(身も蓋もない)、その代わり映えのない日常の中で私は「おだぎり、オダギリ、odagiri」と騒ぎ、主任は「まんじゅう、肉まん、ケーキ」と騒ぎ、小さな事でも「これがしたい、あれがしたい」という欲望があることを本当に幸せに思っております。
う〜ん、これは果たしてメゾン・ド・ヒミコの感想か???最後に役者ファンらしく役どころに触れれば、いちばんウッときたのはダンスホールで怒るさおりを遠目に見、戸惑いながら静かに欲情する春彦の表情でございました。
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