血と骨(シリアス編)

 形になっては壊され、壊されてはまた形を作り、永遠に完成のない積み木の城のようだ。様々な形をした「家族」は作り手である金俊平(ビートたけし)のよって壊されまた再生し、いびつな形をしている。全編を通して『家族は大切に』とか『悪行の報いは必ず来るよ』とか教訓めいたものや心情を表すセリフはなにもない。監督は「金俊平」という人物の人生を良い悪いは関係なく記録として録りたかったのだろう。それでも激しいのに淡々としているその画面からは苦しみ、怒り、家族の間に流れる特別な感情に溢れ、なぜだか分からないが私を切なくさせるのだ。

 圧倒的な力を持つ俊平にはだれも逆らえず、ピリピリした膠着状態が続く画面に自由奔放に振る舞う朴武(オダギリジョー)の登場ですよ。武は居ついて好き勝手にし、俊平と対等な口をきくことを許され、見事な入れ墨を披露する。画面をさらわないハズはない。俊平の前に姿を現した本当の理由は何だったのだろうか。金を手にしたかったのか?息子の存在を父に知らせたかったのか?家族の疑似体験がしたかったのか?父と正面からぶつかって、ようやくそれまでの気持ちに区切りをつけたように見えたのはファンの深読みだろうなあ。

『血は母より、骨は父より受け継ぐ』
父が亡くなったあの時点で見ていたら、今とまた違う感想になったんだろう。私もまた好む好まないに関わらず父より受け継ぎ、私から娘に受け継ぐ。結局こうやって形のないものほど壊されずに残っていくのだ。

血と骨(ミーハー編)

 いやーーーー・・・・・・・正直言うとちょっと侮っておりましたよ。クールな役どころでは、違う役でもときどき被って見えることがあり(すまん忘れてくだされ)、この映画では「広島弁」「入れ墨」「腹巻き」なオダギリ氏が見られる!という方面の期待でありました。突然暗めの画面で登場したときはかなりドッキリしましたが、「息子じゃけえ」と言って、とまどい顔の俊平をおかしそうにニヤニヤ見ている顔をみたときはうわっうわっうわっ!こりはどうした格好良さだっ!カァーーーーッともう一気に心拍数が上がりましたよ。セリフは全体的に抑えめで、ムリに低くつくっている風もないのに穏やかで婉然と微笑むだけで凄みを感じることができるんですねえ。

何がスゴイってやっぱり色気。昭和のやくざチックなアイテムがさらに効果を与えているとは思うんですが、この映画の中ではまさに「匂い立つ」ようですねえ。普段から漂うオダギリ氏の独特の雰囲気は一体なんだろうかと考えてみると人間で言う負の部分「哀愁」とか「孤独」とか「儚げ」あたりから発せられるのかなあと。あちら方面に知り合いがいないので本当のところどうか分からないのですが、この「負の部分」が今回の役どころにピタリとはまって一層色気を引き出しているような気がします。負の部分が色気を引き出すなら、裏も表もない私には全く縁が無いはずですな。できればやはりスクリーンで拝見して画面イッパイに広がる芳香にむせてみたかったです。